元治元年【春之壱】

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    早阪君は私の木刀を跳ね上げるとそのまま右手から左手に持ち替え突きを入れてきた。 右に躱して早阪君の木刀の下に自分の木刀を交えて切っ先から一気に柄まで滑らせ下から小手を決めた。 流石に木刀を手放し後ろへ倒れるかと思われた早阪君は逆さのまま床に手を突き素早く宙返りすると飛び退いた。 「すごい…」 結局、私は決定打を打ち込めなかった。 「いってぇ!!マジで痛ぇ!!」 はっきり言うが痛いと口にしている時点で私の小手はかなり浅かったのだ、面を防がれた私には力加減の余裕は無くなり本気で小手を決めた気でいたのに… 早阪君はしゃがんで必死に手首を擦りながら私を見上げた。 「やっぱ沖田さんてすげぇ!!」 「は?」 「だって俺、あの沖田総司と手合わせしたんだよ!?マジですげぇ!!絶対幸人に自慢出来る!!」 早阪君は目を輝かせて一人大はしゃぎだ。 幸人…そう言えば結構前に本庄さんから早阪君と一緒に鍛えた弟子の名前で聞いた事がある。 「幸人君は強いの?」 何の気なしに尋ねると早阪君は罰の悪い顔で 「強い」 と呟き、「俺より」と少し間を開けて付け加えた。 早阪君の腕前は既に副長助勤同等で下手をすればすげ替えられ兼ねない。 その早阪君が勝てない幸人君… 「でも、早阪君は弟子の中でも強い方なんじゃないの?」 「俺?…俺は別にそこまで強くねぇよ、俺等の先輩達はもっと強かったし、師匠は自分の代になって道場が明らかに弱くなったって言ってた…師匠はすげぇ強いけど、俺等が弱いと師匠の名前に傷が付く…それだけは嫌なんだ」 「早阪君は偉いね…さ、もう一本いきましょうか!」 「はい!」
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