元治元年【春之壱】

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    あれから早阪君が音を上げるまで徹底的に打ちのめした。 聞こえが悪いかもしれないけど、事実…私は本気で彼が立てなくなるまで打ち込み続けた。 だって、悔しかったんだから仕方ないじゃないか… とにかく、あの面が決らなかった事は思いの外、私を精神的に追い詰め、絶対に先手一本を取り返したかった。 一番最初の手合わせは完全に私の負けだ。 そして、今日一日早阪君は面だけは私にくれなかった。 「俺、死ぬ」 「死ね」 「絶対ぇ死なねぇ」 「どっちだよ、死ね」 「お前が死ね健司」 「呼び捨てにするな糞餓鬼!!」 「糞親父!!」 「お、親父!?私はまだ二十一だ!!」 「俺より五年も早く死ぬね」 「あの…仲良いんですか?」 夕日が照らす道場の入り口に大の字で横たわる早阪君の傍にいつの間にかやってきた野口さんが座りさっきからこんなやりとりばかりが続く。 「「良くありません」」 「…そうですか…」 凹凸の噛み合わせは最高に良いと思う私は余程能天気なのだろうか? 早阪君の反対隣に座りぼんやり二人を眺めた。 明日は大晦日… 年が変わる… 最近、少し熱っぽい 自分の体は自分が一番よく分かっている 私は、後どれだけこの場所に居れるのだろう 近藤さん、ごめんなさい。 この風邪は少し治りにくいみたいです。
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