元治元年【春之壱】

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    翌日、向かいの八木邸で隊士達が集まり餅つきをしていた。 杵を振るうのは安藤早太郎で副長助勤で三河の拳母藩紀州日置竹林派応心流の射術の名手で騎射を得意とする通し矢日本一のいわれを持つそうだ。 その為か、あまり刀を振るう姿を目にした事は無く杵を振り上げる姿も何処か心許ない。 「安藤さん私もやりたいです!」 「ん?でも総司風邪を引いてるだろ?あまり無理はしない方が…」 「大丈夫ですよ!ちょっとくらい体動かさないとなまくらになってしまいますからね!」 「そうか?なら、頼む」 「はい!」 杵は思ったよりも軽くて… ゴツッ!! 「沖田君、君が元気なのは十分承知したよ…臼を叩き割らないでね?」 山南さんが苦笑いで眼鏡を押し上げる。 「あ…あはっ…」 おもいっきり振り下ろしたら、餅以外の物まで突いてしまったらしい。 正面で餅を捏ねていた勘定方の河合耆三郎さんが顔を引きつらせ二歩後退りした。 「か、勘弁して下さいよ…」 「すみません、河合さん」 「総司らしいな!!」 涙目の河合さんに謝る私を見て左之さんが豪快に笑うと隊士達は皆笑いだした。 最近、隊内はとても暗くて笑う事も憚られるくらい…それはきっと隊士にとって辛い事でしか無いから。 だからほんのちょっとでもいいから、何か変化が欲しかった。 私が何か…この組の為にしたかった。 何か…を
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