元治元年【春之壱】

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    大晦日、除夜の鐘を聞きながら京の雑煮を食べて年を越した。 「大晦日…か、何年になんの?」 「文久四年」 「文久四年…何年前なんだろ」 「…本庄に聞け」 「うん」 皆で酒盛りをしている中、隣の早阪君は独り言の様に呟いたけど、野口さんはちゃんと返事をしていた。 野口さんは野口さんなりにきちんと早阪君を気遣っているのは一目瞭然で傍で見ていると兄弟の様だ。 早阪君は皆に混ざってお猪口で酒を少し飲んでいたのか頬がほんのり赤い。 野口さんは酒には一切手を付けずに真面目な顔で目の前の左之さんの腹芸を見ている。 「早阪君、お酒好きなんですか?」 「え?いや、嫌いっす」 さっきからちびちびと舐める程度だが酒に口をつける早阪君からは意外な答えが返ってきた。 「嫌いなんですか?」 「あんまり良い思い出無いから」 早阪君には珍しい苦笑いを見せた。 「ご家族ですか?」 「いや……師匠」 ちょっと余計な事を聞いたかな?とは思ったけど彼の苦笑いは苦い思い出と言うよりは呆れた思い出と言う雰囲気で、少し困った様に笑う。 「本庄さん?」 「そう、師匠……師匠酒飲めないんだ」 彼女の体調を知らずにいれば驚愕の事実に近い物があった…私から見た勝手な想像だが、ざるの印象が強いが、どうも病気とは関係無いらしい… 「師匠、酒飲めない癖に自覚が無ぇから毎回俺等は手を焼かされるんだ…それも半端無ぇくらいに……いい加減下戸って認めてくんねぇかなぁ…」 大きくため息を吐いた早阪君の表情はその半端無く手を焼かされる事すら愛しいと思える様で、ただの惚気話を聞かされただけだと今頃気付いた自分に笑えた。 「じゃぁ本庄さんと土方さんが帰ってきたら是非とも宴会を開かなきゃですね!」 「…げぇ……」
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