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年が明けて七日目の正午、壬生寺の鐘が鳴り終えた時だった。
私は早阪君と毎日の日課になりつつある手合わせの休憩に非番の隊士達とお団子を食べに行こうと門に向かっていた。
軽快な蹄の音が微かに聞こえ、皆が口を閉ざす。
誰かがこの邸に向かっている。
音はどんどん大きくなり…
門を潜り抜け現れたのは
「戻った」
「只今、戻りました」
土方さんと本庄さん…
「……師匠…」
隣に居た早阪君は小さく呟き走りだした
馬から降りた本庄さんにそのままの勢いで抱き付き、危うく二人で倒れるのを何とか土方さんが本庄さんの背中を支える事で留まった。
私は反射的に振り返ると斜め後ろに居た野口さんは崩れ落ち両手で顔を覆っている。
「ただいま、透」
「師匠……師匠…」
ただ、ただ、名前を呼んで抱き締める姿にどれだけの淋しさを募らせていたのか見るに耐えなかった。
この国に、
この世界に、
この世に、
たった一人の人
早阪君の唯一、全てを包める人
二人の絆は
好きとか愛してるとかそんな言葉では括れない深過ぎるもの。
二人が離れ離れに在る事は、きっともうこの世の何処にも二人がいない事と同じ。
涙すら流せず、抱き締めたまま動けない早阪君にやっと体温が戻った瞬間だった。
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