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本庄さんは早阪君を落ち着かせると野口さんの傍に膝を着く。
「ご心配をおかけしました」
本庄さんの言葉に野口さんはそっと手を握り締め首を横に振った。
「お帰りなさい」
本庄さんは左腕が動かない所為か野口さんの肩に額を着けて小さく呟く。
「……ただ、いま…」
擦れた野口さんの声に誰もがやっと全部が帰ってきたと感じた。
土方さんは本庄さんを連れて近藤さんの部屋に向かおうとすると…
突然、本庄さんは振り返り
「おいで、透」
早阪君に右手を差し出した。
早阪君はずっと土方さんと歩いて行く本庄さんの後ろ姿を見つめていたのだ、振り返った本庄さんに早阪君はほんの少し安心した様に息を吐いてその手を掴んだ。
早阪君はいつもそうやって本庄さんの後ろ姿を見ていたに違いない。
行かないで
一人にしないで
離れたくない
でも、邪魔になるのはもっと嫌だ
強い羨望で自分を抑えつけていたんだ、本当は抱き締めた瞬間から腕を解くことだってしたくない位に沢山の想いで一杯なのに…
そして、本庄さんはその事をよく知っている。
これから、幹部ですら立ち合えるのか分からない話に早阪君を傍に置いておく位なのだから。
夕餉の時間になっても近藤さん、土方さん、本庄さん、早阪君は現れなかった。
皆がそわそわしている。
口々に話している話題はやはり当然と言えば当然の物だ。
だけど、結局当の本人達がいない為に話は噂に留まる。
深夜、空気は深と冷えて澄み切っていて私は部屋の前の廊下に座り糸月を見上げていた。
「風邪、引きますよ」
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