文久三年【春之壱】

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    あれから三日経つ。 透との会話も途切れがちで相当神経が摺り減った。 ガチャン ガラガラ… 「お二人共出て頂きます」 相変わらずの笑顔が勘に障る沖田総司は牢屋の鍵を開けて五人係りで私を三人係りで透を歩かせた。 そんなに人数かけて頂いて申し訳無いが一人で歩けない程度には疲れ切っている。 連れて来られたのは道場の入り口らしき庭先だった。 暗色の羽織袴で地面に座る私達を四角く囲む様に立っている浪士達。 私達の目の前の人垣が開き、あの黒い印象の男と大柄な男が立っていた。 この状況で二人が誰か位分かる。 近藤勇局長 土方歳三副長 透の目は虚ろで少しふらついていた。 私も三日間一睡もしていないし食事も一切喉を通らなかった。 透もそうだが両手を後ろ手に拘束されている。 真っ直ぐ前を向き二人を見上げる。 「てめえ等の事を調べさせてもらったが、何一つ確かな情報は得られなかった…どういう意味かわかるか?」 黒い男、土方歳三は無表情でそう言った。 当然に決まっている… 「不安材料は一つでも少ない方がいい…と?」 私が返すと少し、ほんの少し眉を動かし、 「理解が早くて助かるな、だが、長人との一件もあるてめえ等を黒と言い切る事は出来ない」 初めてこの時代に来た日の事を言っているのだろう。 「どちらかを生かしどちらかを見せしめに?」 「そうだ…」 男の声はやけに静かに響いた。
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