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「まず…本当に不味い……有り得ない、寧ろ…毒?」
本庄さんは大きくな咳払いをすると手の平で口を覆い顔を歪めこの世の物とは思えないとでも言いたげな目で自分の煎れた湯呑みを睨む。
と言うよりも、そんな目で睨んでいる様な物を私は飲まなければならないのだろうか?
「本庄さん…これ、何ですか?」
恐る恐る本庄さんを見ると彼女は真っ直ぐに私を見つめる。
「沖田さん…これ、本当に不味いです……でも何も聞かずにその一杯を飲み干して下さい、お願いします…そしたらきちんとお話しますから、お願いします」
本庄さんの雰囲気は一転し真剣な顔で私に頭を下げた。
「あの、分かりました、分かりましたから顔を上げて下さい」
ただならぬ態度に私は選択権を失い、たっぷり五つ心の中で数えて目を閉じ息を止めて一気に流し込んだ。
湯呑みは大分ぬるくなっていたが喉を直接通り過ぎるには熱過ぎて焼ける様に痛い。
口の中に留めていた訳でも無いの香りは口一杯に広がり鼻を抜ける。
あまりの不味さに声も出ない。
「……………」
「…沖田さん?大丈夫ですか?」
本庄さんが心配そうに窺って来るが私は小刻みに首を横に振る事で精一杯だった。
「すみません…不味かったですよね…もう、飲みたくないですか?」
本庄さんは不思議な事を聞いてくる、自分も飲んで知っているだろうに、わざわざ飲みたくないか等と。
私は必死に何度も何度も頷く。
「私もです……でも、もし…これが私と沖田さんの命になるとしたら?それでも、沖田さんは飲みたくないですか?」
湯呑みを置いた本庄さんは未だ湯呑みを握り締めている私の手を包み込む。
少し冷たい柔かな手
私はこの手がとても好きだ
今、この手は必死に私を結び留めようとしている。
私と本庄さんの命…
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