元治元年【春之壱】

18/25
前へ
/554ページ
次へ
    「本庄さん…らしくないですよ…はっきりと言って下さい」 含む言い方に 余命を持つ彼女に 縋るこの手に――― 私はもう逃げる事をしたくなかった… 「沖田さんは結核です…半年後を最後に貴方は新撰組を脱する事になります」 ガシャン… 「…っ!!」 分かってはいた。 自分の体がもう決して永くは無い事を… でも、闘いの最中この組の中で死せるならば、それは本望だった。 けれど、私達の未来を知りこの国を識る彼女から告げられたのは余りにも残酷過ぎる事実だ。 新撰組を脱する… 真っ先に頭を過ったのは 『局中法度書』 私、土方さんに斬られるのかな? いやだ、いやだよ土方さん!! 土方さん、私大丈夫です!! 闘えます!!刀だって握れる!!長人だって絶対に逃がしません!! だから、お願いだから私を此処に居させて下さい… 手から滑り落ちたのは湯呑みなんかじゃなかった。 私が手から滑り落としてしまったのは私の未来… カチャ…カチャカチャ… 夜闇で暗くなったのか絶望で目を伏せたからなのか見えているのかいないのか 私の全てが真っ黒になる中に聞こえる音。 「私の未来は変わってしまいました……私と関わって貴方の未来も間違いなく変わってる筈です」 「死にたく…ない」 私の足元で落ちて壊れた私の未来 一つ一つ丁寧に小さな欠片も見逃さずに拾い集める小さな手。 その小さな手は淡い白さを纏い私の全てを拾い上げていた。 ドサッ… 「本庄さん…本庄さん……本庄さん」
/554ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5137人が本棚に入れています
本棚に追加