元治元年【春之壱】

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    仄かに桜の淡い色を浮かべた灰色の長着はこの澄んだ夜気の中で光を灯している様で… 縋る様に抱き付いた 本庄さんは確かに背は私と変わらず女性にしては長身だけど、抱き締めた身体は信じられない程に細く柔らかかった。 男の私とは全く違う肉体。 支え切れる訳もなく呆気なく尻餅を着いてしまう。 私は構わず抱きすくめたまま彼女の名前を呼ぶ。 私は此処にいる まだ居る 居るんです 「沖田さん…大丈夫です、きっと大丈夫」 背中を撫でる小さな手は私の未来をもう一度繋ぎ合わせ結び止めてくれた。 こんな風に女性に触れたのは初めてで… 早阪君がよく本庄さんを抱き締める事に妙に納得してしまった。 神経が騒めき立ち血が凍り、今腰に刀を差していなくて本当に善かったとさえ思える位に興奮していたのに 抱き締めた肉体の柔らかさと人の生きた温もり、微かに香る白檀に似た香り… 私の全てを一瞬に鎮めた。 「すみません…こんな事して」 謝りながらも離せない自分が想像以上に死に打ちのめされたと気付いた。 羞恥 それを上回った恐怖 今もし、本庄さんが居なくて、刀を差していたなら私はきっと夜明けまで止まらない。 そして、もう二度とこの夜を最期に戻れない。 「生きましょう?…まだ死ぬには早過ぎる…沖田さんを失った新撰組に未来は遺されていないんです……だから生きて下さい沖田さん」 「私は、まだ…此処に居ますか?」 「当然です…この先も居ます…私が沖田さんの証になります」
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