文久三年【春之壱】

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    見せしめと言う言葉に反応したのだろう。 「し、しょ…」 透が跳ねる様に此方を見た。 覚悟はしていた。 していたが、僅かばかりの希望だってあった。 死にたくない。 頭を三日間こればかりが蠢いて狂いそうだった。 だけど、最初から自分がどうするか、 自分がどうしたいのかは決まってた。 だから、迷いはしなかった。 「分かりました、でも約束して下さい、生き永らえた方には絶対手を出さないと」 私は真っ直ぐ二人を見上げる。 「分かった、約束する」 答えたのは大柄な男、近藤勇。 「え?師匠…死ぬの?俺、死ぬの?」 透の声が震える。 「馬鹿だね、お前は死なないよ」 透の顔を見れなかった。 死ぬのは、 私だ。 「じゃ…だ、誰、が?…誰が、死ぬの?」 「透、お前は目を閉じていろ…何も見なくていい、何も知らなくていいんだ」 私と透の話を聞いてか透は立たされて五歩下がらされたが大暴れしだした。 「ふざけんな!!死ぬなんておかしいだろ!!放せ!!」 私はそれを無視して近藤勇と土方歳三に頭を下げた。 「もう一つお願いがあります」 「…なんだ」 答えた土方歳三は訝しげに目を眇める。 「私はこれでも武人でございます…志半ばで己が力不足で生を断つならば、切腹をさせて下さい… 最期を他人の刀に左右される事が我慢なりません。 そして介錯を此方の上席の方にお願いしたいのです」
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