元治元年【春之弐】

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    昔から総司はどこか大人を気遣う子供らしからぬ所があった。 ちょっとしか違わねぇ俺と左之が馬鹿やっててもそれに混ざる事は無くて、でも決して離れようともしなかった。 別に何が不満とか気に食わねぇとかじゃねぇし総司の何かを疑うとかって事も全くこれっぽっちも考えた事は無ぇ… 総司を僅かでも疑う位なら左之の頭の作りを一から疑う位、俺はあいつを気に入っていた。 事実、左之は正真正銘の馬鹿で、総司は剣にも学にも富んだ利口で良い奴だ。 試衛館を発つ時、近藤さんは最後まで総司を連れていく事を渋っていた、まだ、子供だと… 試衛館を発つ時既に俺達は皆、綺麗とは世辞にも言えない事をしていた、今更それを子供扱いするなんて間違っている、況してや平助を連れて総司を置いていく理由をどう説明させようかと俺と左之は躍起になった。 何故だ? 何で平助がよくて総司が駄目なんだ? 近藤さんちゃんと説明してくれ! 土方さん何で何も言わないんだ! 総司、お前はもっと自分の意志を貫けよ! お前は子供でも無ければ足手纏いでもない! 俺達、仲間だろう? 同じ志ってもん持ってんだろ? 結局、俺と左之は総司を連れて行けないなら幕府の為だろうと行く気は無いと言い張り近藤さんを押し切った。 今、思えば近藤さんが総司を一人訳も無く取り残すなんてある訳が無かった。 人一倍に総司を可愛がった近藤さんはそれだけ総司を見ていた。 きっと、誰よりも早く総司の異変に気付いていたに違いない。 そして、誰よりも何よりも総司に生きて欲しくて多摩に残したかったんだ。
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