元治元年【春之弐】

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    目の前で泣きじゃくる総司は今まで足りなかった何かを埋める様に必死だった。 刀は人を変える。 総司には正にいい例えだった。 初めて会った時は気付かなかったけど、試衛館時代に何度か真剣勝負はあった。 総司は強かった。 返り血で着物を汚す事は只の一度だって見た事が無い。 鬼の申し子 土方さんは総司をそう言った。 普段からあまり感情的にならない奴で、誰にでも愛想が善く餓鬼に好かれる様な奴だ。 だけど、去年の春先から総司は変わってしまった。 市中見回りから息を切らして帰って来ると偶然通りかかった俺を取っ捕まえて馬を走らせた。 見た事も無いくらい総司が興奮していたのをよく覚えている。 変な着物を着た女と餓鬼。 女は総司を倒した。 芹沢が女を連れて行くと、残された餓鬼と一緒に毎日総司は門の前に座った。 総司は何度も何度も近藤さんや土方さんに女を助けて欲しいと願い出た。 餓鬼と女が擦れ違う中、総司は毎日女に断られながらも姿を見に行った。 餓鬼と女が抱き合う中、誰よりも二人が一緒に居る事を総司は喜んだ。 水戸へ発つ日、総司は女に大丈夫だと言っていた。 総司は明らかに女に執着していた。 花街だって興味を示さなかった総司は何時だって女を求めていた。 俺は女が嫌いだった。 得体の知れない女が気味悪かった。 なのに、あの総司が泣いている。 辛うじて、左之と総司のいる前でと言う理性に抑えられ俺は涙を流す事は無かった。 左之は遠慮無く泣いている。 自分で言っといて今頃名前を思い出す俺は最低だ。 大切な仲間を助けてくれた本庄祿。 大仰な名前だとは思わない自分がいた。 天から賜る幸い… 俺達は何物にも変えがたい奇跡を賜った。
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