元治元年【春之弐】

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    「ってかじゃぁ何で入れんだよ?観覧謝絶って見えてないとか?」 「新八、お前よく今まで近藤さんに殴られずに生きてこれたな」 土方さんのため息と同時に左之は苦笑いで近藤さんの背中を見る。 「昨日、本庄の前で島原行くって言ったろ?最初はこの店じゃなかったんだ、だけど本庄がどうしても見てみたいって言うからよ…」 土方さんは困った様な面倒そうな顔で首を掻く。 「理由それだけ?」 「それだけだな」 「いや、だから、観覧謝絶はどうしたんだって?」 「本庄が自分で昨日此処へ来て約束を取り付けたんだよ」 「………意味分からん、全然理解が出来ない」 「俺も詳しい事は知らねぇよ、昨日は近藤さんと二人で来てたんだからな」 昨日、確か本庄は一度くらいは見てみたいと言っていた。 一度くらいはって事は島原には一度足りとも入った事が無いと取っていいはず。 だから、観覧謝絶はどこ行ったんだよ? 「本庄、観覧謝絶って知ってる?」 平助?お前は馬鹿なのか? それは天然で済むのか? 俺達と並んで歩いていた平助はすすすっと後ろに下がり何人か後ろにいた本庄に話し掛けた。 「師匠、観覧謝絶って何?」 「一見さんお断りって事」 「まぁ輪違屋だし当然だな」 「何?輪違屋って凄い所?」 野口は納得しているが早阪は全く知らないらしく店の様子をよく見ている。 「島原にただ一つ平成にまで残る最高の廓だよ」 「…え?」 平成…それは百何十年もの先の日本。 本庄と早阪が居た時代。
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