元治元年【春之弐】

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    酒が回り半刻も経てば大人しく座っていられない奴等がいる。 「よっ!!名物原田の腹踊り」 「おめぇら馬鹿にすんじゃねぇ!!この腹はな金物の味を知ってんだ!!」 「切れ!切れ!」 相変わらず酔うと脱ぎたがる… 芸妓の三味線太鼓に合わせて左之が躍れば珍しく松原が合いの手を打つ。 会計方の酒井が立ち上がり左之を真似て踊りだす。 結局、俺達みたいな片田舎から出て来た奴等にはどんな高い座敷も何時もと同じ能天気な酒盛りに変わるんだ。 俺は、嫌いじゃない。 「ずっとこのままならいいのに…」 つい零れた言葉に自嘲的な笑みを浮かべ、自分は酔ってるんだと思った。 「俺も!俺もずっとずっとこのままがいいよ新八さん、俺達もっともっと将軍の為に頑張ってもっともっと仲間増やしてさ、こうやって酒が呑みたいよ、頑張ればさ、仲間だって減ったりしないよね?」 左之の隣に居た平助の顔は大分赤みが差して酔いが回っていたが、焦点はしっかりと俺を捕えていた。 「当たり前だろ、俺達は将軍様の兵なんだからな!」 「そうだよね!」 平助は幼い顔付きをし突拍子も無い事を吐かすし度が過ぎる悪ふざけをする事もあるが、きちんと仲間を思ってる。 裏切りが誰よりも許せないのも、もしかしたら平助かもしれない。 生まれは藤堂の御落胤と自称してるがきっと本当なのだろう… 平助の長刀、上総介兼重なんて中級武士の出だって持つ事の出来ない名刀だし上総介兼重は藤堂藩お抱え刀工だ。 だからこの新撰組で最良の育ちなのに、品行最悪ときたもんだ…最近は出動回数が増えた所為か近藤さんにしょっちゅう怒られてる。 何と無く分からんでもないが、平助の長い反抗期はまだ終わる気配が見えない。
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