元治元年【春之弐】

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    一刻半が過ぎた頃にはどんちゃん騒ぎになっていた。 芸妓達も呑んで歌って踊って輪違屋の一室は未だ夜の帳を拒んでいる。 「本庄さん、可愛いですねぇ!」 総司のよく通る声が聞こえて視線を滑らせると一瞬で酔いが覚めた。 「沖田さんの方が可愛いですよぉ」 誰だこいつ 「師匠!もう止めろって!!」 「いやですぅ!!」 だから、誰だよこいつ 「あ、そうだ!近藤さぁん!!」 「沖田さん行っちゃった」 「そうだな、だからもう酒はおしまい」 「ぁ…お酒…」 「駄目だって言ってんだろ」 総司は滅多に酒は呑まないが隊内でも上位に付く酒豪だ、その証拠にあいつが座っていた回りには笑えない量の徳利が転がっているにも関わらず足取りはしっかりしていて顔色は僅かに血色が良くなってる程度。 因みに俺と左之と平助で徳利二十本はいってるが、優に倍はある… そして、総司の何かしらの思惑に寸分狂わず填まったのが本庄。 普段の顔色が悪い所為か酔いが回って頬紅を差した様に薄く色付いている。 しかし、問題は其処じゃない。 本庄が笑ってる。 満面の笑みだ。 目尻が見た事無い程に下がっている。 別に本庄が笑わないと言ってる訳じゃない、いつもは綺麗な微笑みで気品すら窺えるのに、今は… 言いたくない… 本庄にこんなこと絶対言いたくないし聞かれたくも無いが… 可愛い と、ほんの少し思った。 ほんの少しだ。 極僅かだ。 「本庄食べたら、透に刺されるよ?新八さん」 「黙れ平助ぇ!!!!!!」 「痛い痛い痛い!!何で!?だって穴開きそうなくらい本庄見てたじゃん!!」 「てめえは二度と口の利けねぇ様にされてぇのか?」 「お!平助どうした?又しょうもない事したか?」 「違うよ!!新八さんが本庄を食べそうだったから!!」 「相手してやる!!刀を抜けぇ平助!!!!」 「…本庄?」
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