文久三年【春之壱】

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    「…切腹?」 聞き返した表情は驚愕だった。 「はい、これは私の罪です…私の力が及ばなかったが為に捕まり、制裁を与えられたのは私が弱いからです。 介錯を上席の方にお願いしたのは、私の最期の遺恨です。 私も道場を持ち弟子達を守る上に立つ人間です。 その人間が志半ばで弟子を遺して逝く哀しみを味あわせてやりたいのです」 私は哀しみと怒りで震えながら二人を睨んだ。 「…分かった、わしが介錯しよう」 「近藤さん!!」 「師匠止めろ!!マジでふざけんな!!んな事したら許さねぇぞ!!だって死ななくていいって言っただろ!!師匠は佐幕派なんだよ殺すな!!」 斜め後ろから透の怒号が飛ぶ。 「透、この人達は知ってるよ、だからよく覚えておけ、この世界は強くなきゃ生きていけないんだ。 私は、弱かったんだ。 こんな形でしかお前を守ってやれない」 後ろ手に拘束されてた縄が解かれた。 「嫌だ!!嘘だろ師匠!!頼むから止めろ!!」 「透…最期くらいお前の師匠でいさせてよ… お前には本当に感謝してる命懸けで道場守ってくれて、私の為に命まで… 私は充分幸せだった十年間沢山の弟子に囲まれて十年間お前達がいつも傍に居てくれた。 幸せだったんだよ…ありがとう 元の場所に戻してやれなくてごめん 泣かせてごめん せめて、生きて 願わくは君に幸多からん事を」 目の前に半紙と短刀が置かれた。
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