元治元年【春之弐】

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    それから、又左之と平助と呑み直していると突然… 「いやだ!!やだやだ!!行きたくない!!」 座敷の外から大声が聞こえてきて… スパァン!!! 一瞬静まった部屋の障子が割れそうな勢いで開いた。 開いた入り口のど真ん中には総司が立っていて、左端には早阪が面倒臭そうな顔で立っている。 「皆さん!!今夜一番の花が咲きましたよ!!」 総司は大きな声で注目を集めると座敷に上がり一畳目で跪く。 「春月太夫の御見えです」 春月?そんな名前の花魁など居ただろうか? しかし、太夫と聞き誰もが喉を鳴らした。 早阪が座敷に上がろうとすると何者かに腕を引かれるも宥める様に何者かの手を取り、先に座敷に上がる。 春月太夫… 正しく相応しい。 早阪に手を引かれて座敷に上がったのは… 真っ赤な襦袢の上に紫苑、今様、雪下の順に着物を重ね一番上に桜鼠に紅椿を散らした着物を緩く羽織り胸元の高い位置に藍色のへこ帯で花のように結んでいる。 髪は椿油で艶を出し左耳の斜め下には大輪の山茶花が飾られている。 化粧は薄く白粉を叩いて紅を引いているだけの様だ。 躊躇いがちに一歩ずつ歩く姿も 酒と羞恥で瞳に溜まった涙も 踏ん切りが着かずに早阪を離せない小さな手も 何もかもが美し過ぎた。 それはまるで春の朧にけぶる満月の様で…
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