元治元年【春之弐】

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    りぃん… …ちりん 一歩、歩を進めるごとに小さな鈴の音がする。 よく、見れば本庄の左手首には深紅の細い紐が縛られ歩く度に動かせない左腕が揺れて、そこから音がしている様だ。 座敷の真ん中まで来ると静かに座り上座に向かって頭を下げた。 未だ不服なのは有ありと顔に出ていて、中々近藤さん達を見ようとせずに目が泳いでいる。 「…おかしいなぁ?私の予想としては皆さん驚いてくれると思ったのになぁ」 総司は早阪とは反対側の本庄の隣に座り座敷をぐるりと見渡す。 確かに、総司は俺にあっ!と言わせて見せると言っていたが障子が開いてから誰一人声を出していない。 だが、総司は勘違いしている。 驚いていないんじゃない。 声も出せない位に度肝を抜かれて、見てみろ土方さんなんて煙管逆さまに持ってんぞ。 「だ、だから嫌だったんだ…透の嘘吐き」 「何で俺なんだよ…酔っ払って沖田さんの口車に乗せられたの自分だろ?」 「ちょっと早阪君、私の所為にしないで下さいよぉ」 真ん中に座る三人は何やら言い合いをしているみたいで、耐えられなくなったのか本庄はそおっと早阪の陰に隠れる様にずれた。 「本庄さん隠れちゃ駄目ですってば」 「いやだ、早く脱ぎたい!」 「此処で脱いじゃいます?」 「沖田さん!!!!」 「…分かってますよぉ、ちょっと近藤さん、本庄さんが可愛くないんですかぁ?」 早阪に怒鳴られぶすくれた総司はあわよくば此処で羽織一枚くらい脱がそうとしたに違いない。 話し掛けられた近藤さんは何度も瞬きをして漸く発したのは、 「ぁ…あぁ」 と言う、何とも曖昧な返事だが、俺に同じ質問をされてもきっと同じ返事をしただろう。
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