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「沖田さん、ごめん、ありがとう…師匠喜んでる」
「いえ、いいんです…」
もっとちゃんと言わなきゃいけなかったけどそんなん全部飛んだ。
息を呑む物があった。
今までだって何度も師匠を綺麗だと思った事はあったし可愛いとも思う。
でも、行灯の柔い光と月夜の頼りない光の中に浮かぶ淡い不思議な色の着物に白い肌が映えて紅を引いた唇に眩暈がした。
目尻を下げて小さく笑ったその笑顔に優越感を感じた。
幸人も慎一郎も流星もいない。
俺だけ。
俺の名前を呼んで、
俺の顔を覗き込んで、
俺の答えを求めた。
俺だけ。
ヤバい…
マジでヤバい。
「全て終わったんですか?」
「へえ」
「あ、これ…」
沖田さんの問い掛けに一人の花魁が師匠の髪にそっと触れる。
「山茶花ですか…綺麗ですね」
「へえ…あんさん、……」
「え?……っ!!お、沖田さん!!近藤さんにも見せて来よう!!!!」
「えっ?あ、はい…」
花魁は師匠に花を付けると俺の耳元で小さく囁いた。
《あんさん、本庄はんが透はんにて言わはってましたえ…花言葉は愛敬》
花魁は夜に似合った笑顔で部屋に急ぐ俺達を見送った。
愛敬って
俺にって
馬鹿、自分が何してるか分かってんのかよ?
此処には幸人も慎一郎も流星もいねぇんだって!!
兎に角、人がいる所に紛れたかった。
ヤバかった。
もし、誰もいなかったらって思うとマジでヤバい。
俺だって男なんだって気付いてんのかよ…
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