文久三年【春之壱】

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    短刀を半紙で包み握る。 「止めろ!!師匠死ぬな!!こんなん間違ってる!!なんで何もしてねぇのに師匠が死ぬんだよ!!おかしいだろ!!」 「目を閉じろ透!!!!」 私は透の声を掻き消す程の怒鳴り声を上げると静寂が満たした。 「 お前は生きて帰るんだ透     さよなら、透  」 大きく息を吐き一息に刀を引き寄せた。 透の絶叫と高い金属音、ザクリと言う音がして私は前のめりに倒れた。 余りの衝撃で何が起きたか分からないし浪士達もどよめき立っている。 私は体を起こして両手を見つめる。 握っていた短刀は姿を消して後頭部に触れると背中の中程まであった髪はうなじ辺りで切り落とされていた。 「不逞浪士と見なした本庄祿は此処に切腹介錯として処分を受けた」 近藤勇は私の切り落とした髪を握り目の前に立った。 その隣には刀を抜いた土方歳三が立っていて、刀を払った方向には私が握っていた短刀が地面に突き刺さっていた。 「もし、此処でどちらかが見せしめを擦り付けたら二人共斬っていた…まさか切腹するなんて言いだすとは思わなかったがな」 土方歳三は難しそうな顔をして納刀した。 試されたらしい… 「縄を切ってやりなさい」 近藤勇がそう言った直ぐに… パァン!! 胸ぐらを掴まれ頬を叩かれた。 透に。
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