元冶元年【春之参】

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    着いて入ったのは先ほどの五つ隣の部屋。 「師匠、何すんの?」 「また着替えんのか?」 「お手伝いしますよ!!」 「俺も!!」 「勿論俺も」 「………」 「透、永倉、沖田、藤堂、原田、身ぐるみ剥いで真っ赤に染めてやろうか?」 『すいませんでした』 だから!!俺関係無いよな!? 師匠は今絶対目だけで一人くらいなら殺れてた。 「取りあえず、透脱げ」 「………は?」 「脱げ」 俺、今日飲み過ぎたみたいだ 「脱がせろ」 幻聴が… 「うわっ!?ちょ!!何してんすか!!!!離せ!!ふざけんな!!」 めちゃくちゃ悪人面で俺の両脇を抱えるのは原田さんで袴の帯に手を掛けたのは永倉さん。 え?冗談だよな!? 「し、師匠!!!助け!!!」 「だぁめ」 永倉さんの後ろで艶めいた笑みを浮かべ甘い口調の師匠に絶望を感じた。 「藤堂さん、露草、若竹、藤を順番に取って…沖田さん透に着つけて」 「はいよ!」 「承知しました」 沖田さんは満面の笑みで師匠の言う順番通りに俺に着物を着せていく。 それも、女物の… 師匠は俺に背を向けたまま一瞥もくれずに着物を眺めている。 「最後に今様」 「はい!」 「さぁできましたよ!!!」 「「うははははっ!!!」」 原田さんと永倉さんが遠慮のえの字すら脳内の片隅に無いかの様に爆笑する。 「次、永倉さん」 「え?」 「よしきた!!!」 「あ!!離せ左之!!殴るぞ!!」 「平助!透脱がせろ!!」 「はいはい!!」 「全部脱がしてやる!!」 「いやだぁぁぁぁ!!!!」 「沖田さん、江戸紫、紅鬱金、弁柄に常盤」 「はぁい」 「総司!!!!やめろ!!」 「永倉さん往生際が悪いですよ?何なら褌も脱ぎます?」 「………」 「はい、おしまい!!」 異常なまでの手際の良さに俺は沖田さんをちょっと疑った。 「野口殿、何逃げようとしてるんですか?」 「…い、いや…」 入り口を振り返ると健司は障子に手を掛けて片足を廊下に出していた。 「健司、お前ばっか逃げられるなんて思うなよ?」 「おい!!私は関係ないだろう!!なんで私まで!!」 「野口を抑えろ!!!」 「脱がせ!!!!」 「うわ…!!!やめろ!!」 健司の声も空しく沖田さんの餌食になった。
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