元冶元年【春之参】

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    「早阪君」 「何すか?」 沖田さんに呼ばれて向き直ると困った様に笑ってる。 「そんな怖い顔をして見ているくらいなら行ったらどうです?」 「…別に、健司が付いてるし」 「それが気に入らないのでしょう?」 「それは…」 「早阪君の役目は此処でお酌をする事じゃないでしょう?」 「え?」 「貴方の役目は彼女から離れない事、彼女を守る事でしょう?」 「俺は、そんなに強くないよ…」 「それは私が決める事じゃありませんからお返事はし兼ねます、強いかどうかは彼女が決める事です」 「でも…」 「もう!!でもなんていいからお行きなさい!!」 「ちょっ!!沖田さん!!」 沖田さんは頬を膨らませて俺を力一杯押した。 正直な話、顔は可愛いと思うが性別は男なんだ。 沖田さんの力一杯は半端ねぇ… 俺は押された勢いに任せて廊下に向かった。 「よぉ…」 「お前か…」 「うるせっ」 廊下に出ると健司は女物の着物にも関わらず片胡坐に師匠を抱いて酒を飲んでいた。 「折角美人片手に月見酒してたのに邪魔が入ったな」 「………」 「何だ?」 「師匠落とすなよ」 「はぁ?お前どうしたんだ?」 「何も無ぇよ」 「……お前は本当に何も分かってないな」 「はぁ?」 そう言うと健司は突然立ち上がり… 「うわっ!?」 師匠を俺に落とした。 「餓鬼が酒なんか飲むから何も分からなくなるんだ馬鹿野郎」
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