元冶元年【春之参】

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    「今夜は此処で夜を明かすそうだ、部屋は向こう七つ取っている…一つは近藤局長が本庄を気遣っての事だ」 健司は勝手に話終えると宴席に戻っていった。 俺は師匠を抱えたまま健司の後ろ姿を見ていたが、師匠を抱え直して健司が残した酒を一口飲み立ち上がる。 「……と…る」 「ぁ?」 「………」 耳元で師匠が俺を呼んだ気がしたけど、どうやら寝言らしい。 人肌を確かめた手はしっかりと首に回された。 七つ目の部屋を開ける。 既に布団が敷かれている所を見て酒を飲んだ事を後悔した。 身体が、熱い。 舌打ちしたくなるのをグッと堪えて、とにかく師匠を布団に寝かせた。 ゆっくりと降ろし、膝の下に入れた右腕を抜く。 師匠の背中を支えてる左腕を静かに降ろして右腕で自分の体を支える様に師匠の顔の傍に置く。 「師匠、手…離して」 「………」 俺の首に回された腕には思った以上の力が入っていて、その分俺と師匠の顔の距離は近い。 俺の声にゆるゆると瞼を上げて僅かに視線を彷徨わせる師匠。 「とお、る」 「師匠、手離して…ヤバいから」 口にする程に訴える俺の理性の情けなさに涙が出そうだ。 「師匠……俺、」 「…?」 俺の壮絶な葛藤なんて何処吹く風で師匠は目を僅かに細めて小さく首をかしげた。 馬鹿師匠!!!! 俺の理性にあんま期待すんな!! 昔、俺と幸人が風呂覗いてぶん殴ったの忘れたのかよ!! 俺、男なんだよ。 師匠以外を女だなんて思った事ねぇんだよ。 頼むから、そんな目で見んなよ。 「師匠……嫌いにならないで」 ごめん、ごめん…師匠
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