元冶元年【春之参】

19/20
前へ
/554ページ
次へ
    目を眇めて 、伸ばしていた肘をゆっくりと曲げる。 近付く師匠の表情は未だ変わらず全く分かっていない。 俺、最低だ。 頭で理解しても、焦がれ続けた心に歯止めは効かなくて…身体は従順だった。 唇が触れるか触れないかの至近距離。 自分の酒の匂いが掻き消された。 強い、花の香りに… 触れた唇は温かくて柔らかかった。 キスをしたのは生まれて初めてじゃない… 誰にも教えた事のない俺だけの秘密。 師匠とキスをしたのは二度目。 正確に言えば、師匠にキスをしたのは、だ。 相変わらず、小さな唇はそれだけで俺を掻き立てる。 もう一度触れるだけのキスをして師匠の上唇を舐めて顔を離した。 先程よりも開いた瞳はまだ理解しきれていない様で、俺を視界から外さずに視線を彷徨わせる。 俺が舐めた唇が濡れて艶めいている。 頬を摺り寄せ唇で触れる。 耳を甘噛みして吐息を掛ける。 喉を撫でて首筋に歯を立てる。 「…ぅ……あ…」 擦れた声に熱が上がる。 師匠の右腕は俺の首を離れ胸の辺りを握っている。 首筋を舐めて唇で触れ又頬をにキスをして師匠を強く抱き締めた。 「…透…」 俺の名前を呼ぶ声が。 その唇が。 その表情が。 俺を掴んで離さない。 全てを飲み込む様に三度目のキスをした。
/554ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5137人が本棚に入れています
本棚に追加