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もう止めろ。
ダメだ。
頭ガオカシナル
師匠の頭を撫でていた左手を着物に這わせる。
何度も触れたこの体を、確かめる様に肩からゆっくりと…
細く薄い肩…
何度もふざけておんぶをせがんではしがみ付いて離れなかったあの頃。
撫でる様に滑らせた胸に師匠の身体が跳ねる。
思えば何時だってこの胸からゆっくりと聞こえる音に俺は守られていた。
辛い時、師匠は迷わず抱き締めてくれた。
何時だって、師匠は俺の全てを包んでくれていた。
唐突に頭を過った、あの言葉。
《ずっと一緒にはいられない》
音が…音が……
トマル
俺は師匠の胸に耳を当てる。
着物が厚くて…聞こえない。
聞こえない…
「…嫌だ、聞こえない」
俺はただ聞きたかった…
シュッ
短い衣擦れの音がして…
淡い花の花弁が一枚落ちた。
無我夢中で剥いだ着物。
手を掛けた襦袢。
赤く滲んだ真っ白な肌。
零れ落ちたのは、俺の涙。
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