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はだけた胸元に雫が落ちる。
無我夢中で着物を剥いでいた手は襦袢を大きく剥いて止まった。
チリッと小さな痛みに胸の薄い皮膚を少し引っ掻かれたのだと気付く。
「……し、しょ…師匠……俺、嫌だ……俺…嫌だよ、師匠が好きだ…何処にも行かないで、頼むから…いなくならないで…」
ポロポロと零れ落ちる涙が胸の傷を濡らす。
透は私の胸に顔を埋めて泣きながら傷を舐めている。
透は今、必死に私を求めている。
熱い吐息や胸を這う舌に、身体の熱が一気に競り上がり、もう今までの師弟でいる事が出来ないのはよく分かった。
まだ私を抱き締めずに着物にしがみ付くだけの透に断ち切れないものがある事も気付いた。
伊達巻を外し
細紐を解かれ
紫苑の宵が開かれる
真っ赤な花弁を千切り
触れるのは、狂気
「…透…もう、泣かなくていいんだよ」
「師匠…好きだ」
触れ合う肌や耳元で囁かれる愛の言葉に底知れぬ恐怖を感じた。
私は、償い切れない罪を犯した。
それでも、今だけは…
せめて…今だけは―――…
この身に有り余る程の愛と快楽に浸りたい。
二度と夜など明けなければいいのに…
「…何処にも、行かないで…透」
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