文久三年【春之壱】

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    小さな子供の様に私にしがみ付いて泣きじゃくる透を私は抱き締めてやる事ができなかった。 「…私達は貴方達に生かされました、これからどうするつもりですか?」 深く呼吸を整えて近藤勇と土方歳三を見上げる。 「土方さん!私から提案があります!」 場違いな程の明るい声で申し出たのは沖田総司だった。 明らかに面倒くさそうな顔をして憮然と顎でしゃくる土方歳三に彼はとんでもない事を言った。 「本庄さんてとっても強いんですよ!もし、私と手合せして私に勝てたら食客とは如何ですか?」 明らかに時間が止まった。 こんな光景は漫画だけで充分なのに、止まった。 やがて浪士達の失笑が聞こえ土方歳三の額に青筋が浮かぶ。 近藤勇は引きつりながらも何とか苦笑いまで取り戻した。 「総司、てめえは自分が何言ってっか分かってんのか?」 土方歳三はきっと自分を鎮める為に必死に笑って誤魔化そうとしているが… 見ている側は甚だ恐ろしくて堪らない形相になりつつある。 「勿論ですよ!だって本庄さんは佐幕派でしょ?なら、何にも問題無いじゃないですか!」 ニコッと笑う沖田総司の表情は無邪気な子供と相違ない。 「大有りだ馬鹿野郎!!!!こいつが本当に佐幕派かどうかの証拠も無い上にてめえと手合わせだぁ?させる訳ねぇだろ!!!!」 凄まじい怒号に透は私にしがみ付いたままポカンと口を開けて彼を見ていた。 「…証拠…ありますよ」
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