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何もかもが淡く光を纏っている様だった。贔屓目とかそんなんじゃない…
雪のように白くて、花のように柔い。
山茶花の香りが師匠の香りを更に引き立てて、その香りはあまりにも強すぎて目眩すら感じる。
普段、痩せて体温の低い身体は熱を帯びて触れた処から火傷しそうな気さえする。
肌を撫でれは僅かに身体を引こうと強張り深く息を吐き出す。
舌で舐め上げれば息を詰めて小さな悲鳴を漏らす。
堪らない…
中坊の時、幸人が先輩から借りたAV、興味本位で見たけど幸人がそれを借りた理由はただ一つ、女優の後ろ姿が師匠に何と無く似ていたから…
勿論、興味深々の育ち盛り身体が反応しない訳がなかったけど女優の顔は見れなかった。
結局の所、師匠以外に興味は無かった。
目の前の原寸大の師匠
頬を染めて、涙を浮かべ、俺の手を必死に握り締める…
朝が来て、この瞬間が夢か何かの間違いであっても、きっと俺はそれでも幸せなんだ。
だけど、一つだけ俺が残した証。
手で触れて、僅かに歪むその表情がリアルな瞬間と思い知らす。
酒で逆上せ、師匠の熱に当てられ体中の血が沸騰しそうで、自分の何枚にも重ねられた鮮やかな着物の袖を抜き、懐から腕を出して脱ぐと師匠の薄紅の頬が一気に深紅に染まる。
「ん?」
「ぁ、いや…」
少し首を傾げると師匠は目を反らした。
「なんで目、反らすの?ちゃんとこっち見て…」
「ちょっ…と、る」
人差し指の腹で師匠の顎のラインをなぞる様にして俺の方を向かせる。
顔を見せてくれなきゃ意味が無い。
余りにも目を泳がせる師匠の上に覆い被さる様に顔の両脇に肘を付いてそのまま両手で頭を包み込む。
頬を擦り寄せキスをすると漸く俺の目を見てくれた。
困った様な、少し怒った顔…
すごく恥ずかしがってる顔だ。
師匠のどんな表情も見てきた。
本気で怒った顔
嬉しいのに隠そうとする顔
悲しいのに我慢する顔
弱ってるのに平気な振りをする顔
師匠は何時だって俺達の為に自分を犠牲にしてきた。
俺達がそんな必死な姿を知らない訳が無い。
口にする事も拒む事も許されないけれど、せめて…師匠が師匠自身にまで全部隠そうとする様な事をさせない為にも俺達は強くなりたかった。
口だけじゃないんだ
本気なんだ
守りたいって思ったのは。
どんな表情も、その裏に隠れた素顔も。
「大好きなんだよ。師匠」
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