元治元年【春之伍】

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    揺れる身体 鳴き声の止まない口 か弱い体温 求める様に抉る爪 光を見失った虚ろな瞳 逃げる肉体 何もかもが俺を煽り立てて 師匠の全部に喰らい付く もしかしたら、この夜の全てが夢であって欲しいと願ったのは俺かもしれない… 意識を飛ばすまで俺は師匠を求め続けた。 こうなる事は最初から分かっていた。 俺は間違いなく師匠無しには生きられなくなっている。 もとより師匠のいない世界なんて俺が死んでるのと何の変わりもない。 それだけ、俺の中で師匠は絶対的な存在だ。 だからこそ、俺は恐かった。 ずっとずっと恐かった。 平成に居る時からずっと。 師匠に本当の心で触っちゃいけないと、自分に鎖を掛けてきた。 じゃなきゃ、俺はいつか師匠を殺してしまう。 俺、頭イカれてんだ。 師匠の全部が欲しいんだ。 全部は全部だ。 声も 視線も 意識も 身体も 心も 時間も 生も 死も 全部、俺のものじゃなきゃ気が済まない。 誰かに一つだってくれてやる気は無い。 誰かが俺から師匠の死を奪う位なら俺が師匠を殺す。 ダメなんだ、俺…師匠無しには生きられない。 マジで… ただ、薄々気付いてた事がある。 俺の全部が師匠である様にしたのは師匠自身だって事。 それは甘美な猛毒の様にゆっくりとゆっくりと時間を掛けて…
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