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真夜中、ほんの少しの温もりと肌寒さに目を開けた。
なんか重い…?
微睡む頭で痺れた腕を動かす。
柔らかい?
ってか、この天井、何処?
…………?
………!?
「………ぁ………あ」
痺れた腕で無理矢理重みを確かめる。
口元が震える。
必死に叫ばない様に息を吸う。
それでも、涙が視界一杯に溜まり零れた。
俺は、どうして…
「どうして……師匠」
死んだ様に眠るその人に俺の問い掛けは届くはずも無く、俺は真紅の襦袢を引き寄せその人を包む…
俺の触れた跡がそこかしこに残って、真っ白なその人には余りにも痛々しく見えた。
桜鼠の着物を更に着せて帯で緩く締め布団を整えて寝かせると、俺は適当な着物を一枚羽織って帯で締めて廊下に出た。
消え掛けた行灯に照らされた俺の着物は紫苑だった。
ズルズルと障子を支えに廊下に座り込む。
パタ、パタ、と着物を濡らす音が耳に届く。
「…ひっ……ぅ……くっ…」
悲しくて、情けなくて、腹が立って…
声を殺す事すら出来ない自分が大嫌いだ。
膝を抱えて顔を押し付けて声を消そうとしたけれど、息を吸い込んだ全ての空気に師匠の香りが残っていた。
「…どうしよ…俺、どうしよ………助けて、助けて師匠…」
訳が分からなかった。
自分がどうしたいのか…
どうしたら善いのか…
何をしてしまったのか…
ただ、ひたすら答えが欲しかった。
「…ありがとう…透」
差し延べられた手が俺の答えにならない事は分かっている。
それでも、その手を取らずにはいられないから…
「師、匠……俺、」
「私の全てなの…もう逃がしてあげないよ、誰にもあげないよ」
俺が、師匠を壊したんだ。
その事実は変わらない。
「俺は、何処にも行かないよ」
これが、俺の答え。
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