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それから呉野は私の手を離さなかった。
まるで、眼下に微睡む闇に私が堕ちない唯一の命綱の様にも思えた。
「うち…お国の事はよう知りません、せやけどお上はきっと民を思ってくださっとる筈やし、うちはその恩恵の庇護受け取ります…御簾の向こうはきっとうちの知らへん様な場所やろうけど、うちはそれを見いひんとも生きてけます……河野はん…戦は、怖い…誰かが居なくなるんは、怖い」
花魁が何故いるのか?
こんな時代にそんな馬鹿な事を問う奴はいない。
居場所を喪った。
呉野も例外無く、当てはまった。
「…私も、戦は怖いよ呉野」
でも、どうしても許してはくれないんだ。
どうしても、私が許してはくれないんだ。
私が幕府を、許してはくれないんだよ呉野。
私は私なのに…
どうしたって私だと言うのに…
「……先、生」
私は私の忠義に裏切れない。
私が私であるからこそ…
あの日の後悔を今この瞬間だって悔いるんだ。
幕府がユルセナイ
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