元治元年【春之陸】

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    それから呉野は私の手を離さなかった。 まるで、眼下に微睡む闇に私が堕ちない唯一の命綱の様にも思えた。 「うち…お国の事はよう知りません、せやけどお上はきっと民を思ってくださっとる筈やし、うちはその恩恵の庇護受け取ります…御簾の向こうはきっとうちの知らへん様な場所やろうけど、うちはそれを見いひんとも生きてけます……河野はん…戦は、怖い…誰かが居なくなるんは、怖い」 花魁が何故いるのか? こんな時代にそんな馬鹿な事を問う奴はいない。 居場所を喪った。 呉野も例外無く、当てはまった。 「…私も、戦は怖いよ呉野」 でも、どうしても許してはくれないんだ。 どうしても、私が許してはくれないんだ。 私が幕府を、許してはくれないんだよ呉野。 私は私なのに… どうしたって私だと言うのに… 「……先、生」 私は私の忠義に裏切れない。 私が私であるからこそ… あの日の後悔を今この瞬間だって悔いるんだ。 幕府がユルセナイ
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