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私は飽きもせず何刻も男たちを見ていた。
大声で歌い、好き勝手に踊り、酒を酌み交わす。
昔は私もああして騒いだ。
今の仲間と友だった頃は夜が明けるまで馬鹿みたいによく騒いだ。
友では無くなった彼等と又、友に戻れるならば戻りたい。
あの頃、毎日が何より楽しかった…
今は、毎日息をする事すら苦しくて、私はいつからあんな風に笑う事が出来なくなった?
たった一人、先生を喪っただけなのに、私はこの手から何もかもを失った。
あの頃に戻りたい…
先生が還る事は無いけれど
せめて、今傍に在るものだけでも共に連れて戻れたなら…
「まだ、間に合います」
ガタガタッ!!!!
その声は突然だった。
冷水を浴びた様に手足が弛緩して感覚の外に意識を落とした様な気さえした。
無意識に呉野を掴み引き倒しながら自分の背に隠し部屋の角を避けて窓際ぎりぎりに詰めて大刀を抜き火を消した。
「夜分、失礼致します」
夜に溶け込む様な夜気を纏った鎮まる声。
女…
静かに開かれた襖に私は躊躇う事無く大刀を突き立てたが…
ダンッ!!
バスッ!!
大刀を突き立てた音よりも先に何かが床を転げる音がして失敗ったと舌打ちし、そのまま襖ごと刀を凪ぎ払った。
枠を破る衝撃と音に呉野の小さな悲鳴が消える。
血の気が退き呉野を振り返ると…
「お静かに、刀は持っていません…どうか納刀願います」
呉野よりも頭一つ背が高く桜鼠の着物がよく映える白い肌が印象的なあの女が呉野を抱き抱えていた。
まるで、呉野を宥める様に…
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