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「離せ…」
「納刀願います…私は丸腰です…貴殿とお話致したく参りました」
「離せと言っている」
「…………分かりました、突然の非礼誠に申し訳ございません…貴女を傷付けようとしたのでは無いのです…ただそちらの殿方の為にも今宵は他言無用にてお願い申し上げます……さぁ早くお行き下さい」
女は呉野の手を握りそう話すと部屋の外へ導いた。
「こ、河野はん…」
「行け」
私の傍で歩を止めたが、今この部屋で呉野を庇い切る自信は無かった。
この女が部屋に入る瞬間どころか入った事にも気付けなかったからだ。
「河野殿と言う御名前ですか?」
「黙れ…貴様何者だ何しに来た」
目の前に正座する女は凄むでも品定めするでも無くただ私を見ている。
夜闇を背に佇む姿は何故か母親を思い出させた。
「お初お目もじつかまつります、新撰組隊士本庄祿と申します」
「貴様が…本庄?」
「…?えぇ、私めが本庄祿にございます、ご存知で?」
知るも何も無い
私があれ程恐れた本庄祿その人が今、目の前に座るこの女なのだ…
ただ、受け容れ難いだけだ。
「新撰組が何用だ」
「ずっと…斜め下の座敷を御覧になられて居られましたね?新撰組と知りながら…何故ですか?私はそれを知りたいのです…そして、もし…貴殿の御名前が本当は河野殿では無いなら私は貴殿に一縷の望みを懸けたく参りました」
「何だと?」
「貴殿の御名前…吉田稔麿殿ではございませぬか?」
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