元治元年【春之七】

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    散々騒ぎ散らかし、突然死んだ様に寝転けやがる。 おめえ等やっぱり馬鹿ばっかだなと改めて再確認して夜も更けたし、取ってある部屋へ行こうと入り口に俯せで寝ている平助を跨いで嫌な物を見たと思った。 この馬鹿、誰の褌を握ってんだ? と言うか、この部屋の誰かは褌を履いてないと言う事か? 止めだ…夢見が悪くなる。 廊下に出て大きく溜め息を吐き切って目の前の光景に少し首を傾げた。 早阪? 静かに近寄ると息を飲んだ。 「……おめえ」 廊下に横たわる早阪に俺は酔い潰れて眠っている者と思っていたが… 今様の着物を抱いたまま瞳は虚ろに開いていた。 着ている着物もよく見りゃ本庄が着ていた紫苑の着物を羽織っているだけで、今様の着物だって本庄の物だ。 早阪の足元で開いてる部屋の障子をうっかり見てしまい更に分からなくなった。 「おい、どうした?何かあったのか?」 「何も無いですよ」 返事は廊下の向こうの闇から返ってきた。 「本庄…」 本庄は真紅の襦袢に桜鼠の着物を纏い現れた。 喉に噛み付かれた様な小さな傷が白い肌にはとても目立った。 「透起きなさい、こんな所で眠ったら風邪を引く」 膝を付き早阪に手を差し伸べる本庄。 早阪は本庄の手を取ると指を絡める様にしっかりと掴み体を起こすとそのまま本庄の胸にしなだれ腰に腕を回す。 こいつら…… 本庄は俯いていたが口元に弧が描かれていて、俺はそのまま無言で立ち去ろうとしたが…… 「本庄…おめえ今まで何処で何してきた?」
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