元治元年【春之七】

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    「ねぇ…土方さん、もう動いてもいいですか?」 「ならねぇ…」 「本庄さん、どっか行っちゃったりしないですか?」 「行かせねぇ」 「土方さんじゃ本庄さんを繋ぎ留めておく事なんて出来ないでしょう?」 「…何だと?」 「本庄さんを留めておく事なんて誰にも出来ないんですよ…土方さん」 「総司…おめえ何を知ってやがる?」 「私は何も知りませんよ、ただもう直に私達には想像もつかなかった事が起きる、と言う事だけは感じています」 「どういう事だ?」 「ふふふっ、知りませんよ…だから、動いてもいいですかと聞いているじゃないですか」 座敷の真ん中で新八の腹を枕に横になっていた総司は小さく笑うと寝返りを打って此方を向いた。 「ならねぇと言った筈だ」 「土方さん…もし、本庄さんがいなくなっちゃったら私と真剣勝負して下さいね…」 「嫌なこった」 「問答無用です」 総司はそう言うと又寝返りを打って背を向けると静かに寝息を立てた。 待てよ…何でこいつこんなに寝付くの早ぇんだ? もしかしてずっと寝呆けていやがったんじゃ… 「止めだ…馬鹿馬鹿しい」 今夜二度目の溜め息を吐いて肘掛に凭れて目を閉じた。 目を閉じる瞬間、廊下に程近い座布団に横になる野口がぼんやりと夜闇を見つめていて…やたらそれが脳裏に焼き付いた。
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