元治元年【春之七】

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    目を閉じていたらいつの間にか眠ったらしく妙な音で目が覚めた。 「寝込み襲おうってんなら摺り足より抜き足刺し足を覚えんだな………平助!!総司!!」 「わわわわっ!!」 「ちょっと平助下がらないで!!」 ドスン… 何処から設えたのか白粉を片手に、にじり寄る平助はしょうもない声と共に総司の上にひっくり返った。 「重たいじゃないですか!!早く退かないと殴りますよ平助!!!!」 「お、おおお鬼、鬼が…」 居るのはお前の後ろだ平助。 総司は嘘を吐かない。 ゴツッ ドサッ 「痛ぇ!!!!!!」 そら見た事か… 総司の拳骨が平助の後ろ頭に決まり、更には下敷きの右足を旨く抜き平助を蹴り飛ばした。 絶対総司の方が鬼だな、俺より。 「てめえ等朝っぱらからいい度胸じゃねぇか」 「土方さんは珍しく午前様では無いんですね」 「てっきり他のお部屋かと思ったのに、こんな男所帯よりよっぽど楽しいでしょ?」 「取り敢えず総司、平助刀置いて表に出ろ」 「何です?朝から鬱陶しい」 俺が立ち上がり廊下を指差す、その先には… 「おはようございます、ってか師匠挨拶くらいしろって!」 きっちり袴を着付けた本庄と早阪が居た。 早阪は至って何時もと変わらねぇが… おい、俺が何したってんだ? 信じられない睥睨な目でそこかしこを見てから俺を睨んでいる。 無意識に昨夜を思い出して僅かに右足が下がる。 「頭痛い…最悪」 「俺、呑むなって言わなかった?」 「伝わらなかった」 「おいコラ」 「何だくそガキ」 「何でもないです…」 確かに昨夜、早阪は何度も止めていたのにこの仕打ち。 俺を睨んでいた目で今、早阪を睨んでいる。 下戸の二日酔いは質が悪い。
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