文久三年【春之壱】

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    「…参ります」 号令が無い為沖田総司は自ら名乗りを上げた。 瞬間 刹那 何とも表現出来ない程の早さで彼は私の腰辺りまで姿勢を落として懐まで来ていた。 有り得ない… 僅か一撃をコピーされた。 血の気が引きギリギリで飛び去るも勢いを増して打ち込んでくる。 カン!!カンカン!! 木刀独特の高い音は次第に重くなっていく。 力では全く及ばない。 押し負けるなんて次元じゃない。 このままじゃ間違いなく、 殺される。 彼の目には敵しか映ってない。 やっぱり長引かせるのは上手くない。 鍔迫り合いで弾き合い一瞬の間合いを逃す事無く木刀を振り上げた。 神速の天才剣士とは的を射た名だった。 私が木刀を振り下ろす僅かな隙を突いて無理矢理体を捻って横一閃に振り抜こうとした。 信じられない反射神経と身体能力と柔軟な解析力。 天賦の才か… ガツン!! カラカラ… 「…勝負有り」 「参りました…」 寸でで一歩下がった私の振り下ろす木刀は沖田総司の木刀を叩き落とした。 肩口から喉元へ袈裟懸けに木刀を添えて手合せは終わった。 非常に居心地の悪い空気だ… 「…あの、」 「凄い…」 上座の三人に呼び掛けると小さな声が返ってきたがよく聞き取れない。 「…え?なんですか?」 「凄いな本庄君!!あの総司を打ち負かすなんて!!」 ドスドス!!と立ち上がってガッシリ私の手を握り締めた近藤勇。 「では…」 「…ようこそ浪士組へ、歓迎するよ」
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