元治元年【春之七】

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    「歳、わ、私を殴ってくれ」 「え?……はぁ?」 「駄目だ、このままじゃ道理がないんだ…思いっきり殴ってくれ」 「近藤、さん……いいんだな?」 「いい」 近藤さんは先程まで鈴木永嗣が居た場所を見つめたまま動かない。 俺は立ち上がり正面に立ち深呼吸を一度し… バキッ!! 弾ける様な音と共に近藤さんの体が僅かに浮くと一畳半後ろへ飛んだ。 大の字に伸びた近藤さんは天井を見つめたまま、歯を食い縛りゆっくり口を開いた。 「諦めたく、無いんだよ…私は、本庄君の想いを、諦めたく無いんだ」 「………」 分かってる。 分かってるよ近藤さん。 俺達は何時だって想いを同じく共に過ごして来たじゃねぇか。 あの時だって、あの日だって、あの日々だって… 俺達は同じ想いを抱えて来たんだ。 あんたの守りてぇもんだって分かってる。 新撰組の事だって、芹沢の事だって、総司の事だって… 本庄がいなきゃ俺達は信じられねぇくれぇ沢山の物を失ったに違いねぇ。 その本庄が望んだ道だ。 あんたがどれだけ本庄に感謝してるかも分かってる。 俺だって言葉にならねぇ程にあいつには感謝してんだ。 受けた恩を返せねぇ様な態だけはしたくねぇ… 「近藤さん、俺達は皆仲間だ」 「あぁ…新撰組、だ」 近藤さんの頬を伝う涙。 新撰組、と言う言葉。 握り締めた拳。 今一度、鬼に成り申す。
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