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静かに歩きだした鈴木に私はそれ以上何も口にはしなかった。
ただ、黙って歩く背中は未だあの声に未練があったのだろう、足取りは少し重い。
鈴木は歩き慣れた道を進む様に京の碁盤にも似た小路を無心に進む。
少し開けた道に出たと思ったら右手には邸があり、それなりの大きさがある板に達筆とは言い難いが丁寧にこの邸に誰がいるのか書いてあった。
「新撰組…」
「意味は知っているか?」
呟く私の声に鈴木は問い掛ける。
「いや、知らん」
「そうか…なら、ちゃんと見届けろ」
「え?」
三歩前を歩く鈴木は歩を止めた。
「奴等はな、皆農民だ…それだけは忘れるな」
振り返りもせずに鈴木は喋ると私の返事も問い掛けも受け付けないかの様に又、一歩と邸に近付く。
見届ける
家茂も言っていた。
一体何を?
鈴木永嗣?
新撰組?
中条資春?
京?
私が十五代徳川幕府を継ぐ為に見届けるものとは何だ?
時は待ってはくれないのに…
何故、時に答えを求めたくなるのだろう…
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