元治元年【春之九】

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    口を突いて出た言葉を訂正しようとは思わなかった。 「そうだな…だが、人を斬る時…死なせる時……何を考えてるか分かるか?」 「理由か?言い訳か?自分を正統させなきゃ示しがつかんからな」 「…お上はな」 「何?」 「儂らはお前らとは違う…金も名誉も何もいらん…ただ、家族を…郷を守りたいだけ…奪われた物を取り返したいだけだ」 「………」 何を言い返そうか言い淀んでいると男が帰ってきた。 「只今参る故もう暫らく待たれよ」 男はそれだけ伝えたら来た道とは別の道へ歩いて行く。 殆ど待つ事無く奥から人が二人現れた。 一人は小柄で愛想のいい笑みを浮かべて頭を下げる。 もう一人の男は少し大柄で眉間の皺がより一層切れ長の瞳から漂う色香を濃くした。 だが、様子としては堅く表情には恐怖が滲み出ていた。 「新撰組副長土方歳三」 頭を下げた鈴木は小さく呟く。 その口には薄く笑みを称えて。
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