元治元年【春之九】

10/13
前へ
/554ページ
次へ
    「これは一体どういう事だ?」 私は鈴木にでも無く住職にでも無く、自問の様に呟く。 「数日前から何やら人気を感じると思いまして覗いたら…私にも何を話しているかは分かりません」 住職は少し困った表情で零す。 「計画だ」 「計画?」 「何の?」 鈴木は縁側に座り目を閉じて腕を組むと低く低く唸る様に吐き出す。 「夜襲だな……新撰組への」 「何だと!!!」 「…な、何て事を…」 一瞬、身体中の血が吹き上がる程の怒りを感じた。 だが、次の一瞬で血が凍り付く程の恐怖を覚えた。 中条が、幕府を裏切る? そう思った時、底知れぬ恐怖に心の臓を鷲掴みにされ息が詰まった。 有り得ない… 「有り得……っ!!!」 咄嗟に叫ぶ口を鈴木に抑え付けられる。 「馬鹿者!!!中条は隻眼なのだぞ、隻眼の者はずば抜けて聴力に長けておる、貴様の声が聞こえたら全てが無駄になる!!!」 必死に声を抑えて鬼の形相で鈴木が怒鳴る。 全てが無駄?
/554ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5137人が本棚に入れています
本棚に追加