元治元年【春之拾】

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    裏口で中村君と別れ八木邸に入ると全員整列し待機していた。 「申し上げます。先程武田五番隊組長が邸を出られました、五番隊より報告待ちです」 隊士は私の姿を見つけると駆け寄りそう報告した。 程なく浪人風情の男がふらりと八木邸の門を潜ってくると私の方へやってくる。 調役の浅野薫だ。 「武田五番隊組長より言伝です。敵に非ず、との事です」 浅野さんはそれだけ伝えると又浪人に扮し邸をふらりと後にした。 「敵に非ず…一体誰だ?」 小さく独り言を洩らし考える。 報告はあっても命令が下された訳では無い為、待機を解除する事は出来ない。 土方さんが厳戒体制を取らせる相手… しかし、敵ではない。 「沖田組長!」 八木邸の裏から一人の隊士が姿を見せた、五番隊隊士だ。 「此処にいます」 「申し上げます。只今、武田五番隊組長がお連れして近藤局長がお戻りになられました」 全く理解が出来ない。 何故、土方さんは近藤さんまでわざわざ呼び戻したのか… 思い当たる節としては穏健派攘夷の重鎮、京の町奉行所 そるから四半刻もすると武田さんがやってきた。 「土方副長より沖田一番隊組長へ伝令です、待機命令を解除する、だそうです」 「承知致しました。全員帯刀を解除し邸へ戻って下さい」 隊士達を見送り武田さんと八木邸に入る。
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