元治元年【春之拾】

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    「…………」 とうとう土方さんは黙った。 「はぁ…あの客人は一体誰ですか?」 武田さんは大きく溜め息を吐き、土方さんを試す様な目で見る。 「……知らねぇ」 「そんな嘘が時間稼ぎになると思っているのかい?」 不味い、土方さんは言わないんじゃない、言えないんだ…言いたくないだけなら武田さんくらい何とでも土方さんなら誤魔化せる。 でもそうしないのは、言えないからだ。 本庄さんに関わる誰か、もしくは幕府に関わる誰かが来たんだ。 「武田さん、もう、やめましょう?」 割って入ったのは私ではなく突然現れた山南さんだった。 「貴方は気にならないんですか?」 「土方君が口に出来ない意味が分からない程、私は彼の気持ちを無視はしていません」 珍しく山南さんは好戦的に武田さんを睨んだ。 山南さんが怒ってる。 私は知ってる。 鬼の副長と呼ばれる土方さん 仏の副長と呼ばれる山南さん 怒らせちゃいけないのは 山南さんだ。 「言いたくないで済むと思ってるんですか?」 食い下がる武田さんに流石に私も苛立ってくる。 「言いたくないのではありません、言えないのですよ…武田さんは客人を御覧になったにも関わらず、何も察する事が出来なかったんですか?」 「…っな!?」 「私は直接拝見した訳ではありませんから、何とも表現出来ませんが、土方君を見れば一目瞭然ではないですか」
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