元治元年【春之拾】

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    「徳川十本刀と次期将軍が来た」 「二度も言わなくて結構です!!聞こえてない訳じゃありません!!」 さっきまでの陰気な雰囲気から一転してしれっと言い放つ土方さんに一瞬だけれど虫酸が走った。 「じゃぁ返事くれぇしやがれ」 「江戸の堅物偏屈呉服屋はどうしたんですか!!」 「お前ぇ信じたのか?」 「信じる訳無いでしょう!!」 「だから、十本刀と…」 「もう結構です!!!分かりました!!!十本刀と次期将軍様がいらっしゃってどうしたんですか!!」 私は息を切らす様な勢いでまくし立て土方さんに詰め寄る。 背中は山南さんが苦笑いで掴んでいるからあと少しの所で土方さんに手が届かない。 「坊主と中条は元気にしてるか、だよと」 「…え?」 土方さんは煙管に火を付けると燻らせる。 煙は如月の終わり、薄い雲の向こうの青空に朱鷺色が混ざり始めた黄昏に消えていく。 「…だから本庄さんに嫌われるんですよ」 私は山南さんに手を解かれると、その場を走って後にした。 「総司!!!あんま走るんじゃないぞ!!!」 後ろから聞こえた近藤さんの声が昔と何も変わらない事が、余計に私の足を逸らせた。 早く、本庄さんに会いたい。 バシンッ 私は思いっきり障子を開ける 「っうわぁ!!!」 「行きますよ早阪君!!」 私は早阪君の手を掴み問答無用で走りだす。
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