元治元年【春之拾】

11/24
前へ
/554ページ
次へ
    私の問い掛けに早阪君はよく分からないを通り越し訳が分からないと言う顔をしている。 「どういう事?」 「私、てっきり本庄さんから何も伺って無いのかと…」 「沖田さん、俺が許すと思う?」 思わない。 「あ…あぁ、そうですね…過保護ですからねぇ早阪君」 「前科持ちに拒否権無し」 「………」 拷問の事だ。 早阪君は夜、長州藩士に捕らえられたと思ってるんだ。 「黙って何処かへ行くのだけは許さない、夕暮れまでに屯所に戻ってこないのも許さない、帰ってこなかったら俺が一人でも迎えに行く」 早阪君は人混みに本庄さんを探す様に哀しそうな顔をした。 「早阪君、西本願寺から行きましょう、そこにいらっしゃるんでしょ?」 私は又、早阪君の腕を掴み下松屋町通を向かって歩き出す。 「ねぇ、沖田さん」 「何ですか?」 人混みを擦り抜ける私は、早阪君を見れなかった。 「師匠は本当に負けたのかな…」 「………そう、思いますか?」 質問に答えられなかった。 早阪君は知ってて聞いている。 「師匠は負けない、あの日も負けなかった」 「え?」 「師匠の最初の嘘だ」
/554ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5137人が本棚に入れています
本棚に追加