元治元年【春之拾】

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    「でも本庄さんは、きっと…もっと恐い思いをしてるんじゃないですか?」 早阪君が言ったのだ、本庄さんが泣いていると。 「今、師匠に会ったら怒られるに決まってる」 「じゃぁ、本庄さんを一人で帰らせると言うんですか?早阪君は本庄さんが心配じゃないんですか?……逃げるんですか?」 私は本庄さんが何を思い、何を考え今に至るのかなんて分かる訳も無かったけれど、これ以上本庄さんを一人にするのは危険だと直感的に思った。 そして、早阪君に彼自身が無力では無いと気付いて欲しかった。 迎えに来た早阪君を本庄さんが怒る訳が無い。 早阪君は少し錯覚を起こしているだけだ。 彼は自分の見たもの、感じたもの全てを本庄さんと共有していると思っている。 早阪君が自分で悪い事をしていると感じれば、本庄さんも自分の事を悪いと思っているに決まってると思い込んでいる。 だが、実際はそんな事は無い。 本庄さんには本庄さんの考えや感じ方があるから一概に早阪君を責めたりはしない。 野口さんの脱走が良い例だ。 でも、早阪君は何時だって本庄さんを第一に考えて来たから、自然と彼女の気持ちを先回りし過ぎて取り越し苦労と迄は言わないが、多少のすれ違いが生じる。 本庄さんはどんな状況やどんな瞬間だって、早阪君を見れば一瞬で笑顔になるのに……ほら、やっぱりね。 「違う!!!俺は…」 「透?沖田さん?」 早阪君、本庄さんは何で正面の私より後ろ姿の早阪君の名前を先に呼ぶんでしょうね?
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