元治元年【春之拾】

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    「し、師匠!?」 本庄さんの声に肩が跳ね声が裏返って振り返りながら私にぶつかるまで後退りする早阪君は正直面白かった。 「ほら、危ない…怪我をするから離れなさい」 私は早阪君の反応は何と無く予想の範疇内だった為、彼を受け止めたが、本庄さんは少し慌てて駆け寄り早阪君の腕を引いた。 「あ、ぅ…うん、ごめんなさい沖田さん」 早阪君はぎこちない態度で私に謝り、大人しく本庄さんの隣…いつもの位置に収まった。 「迎えに来てくれたんですか?」 「えぇ、私がどうしてもと言って無理矢理早阪君を連れ出したんです」 不思議そうに私と早阪君を見て本庄さんは少し首を傾げていたが、すぐににこりと笑った。 「有難うございます沖田さん、透も有難う」 「だって…もうすぐ、日が暮れるから…」 浮かない表情で視線は斜め下の私の足元を見て早阪君は膨れっ面を見せた。 「うん…ごめん、これから全力疾走で帰ろうと思ってた」 ちょっと困った様な顔をしてから本庄さんはあははっと笑った。 「ねぇ、本庄さん、西本願寺の百華園見ました?すごく綺麗と評判なんですよ!早阪君、ついでですから三人で見て行きませんか?少し暗くなっても私と本庄さんがいれば安全ですし、ね?」 私はしっかりさっきの現場を見ていなかった証明を作り、尚且つ少しだけ本庄さんの話を聞こうと企んだ。 「私はたった今拝見させて頂いたんですが、とても綺麗でしたよ、透、見てくる?」 本庄さんは少し興奮したように声音を高くして早阪君の袖をくいくいと引っ張る。 「師匠が又見たいんだろ?仕方ないから行ってやるよ…」 「ばれたか!」 してやった様な悪戯好きの悪餓鬼みたい歯を見せて笑う本庄さんに早阪君の緊張は完全に解けた様だった。
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