元治元年【春之拾】

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    三人で境内に入る、先程は本庄さんを探すのに夢中だったが御影堂門の目の前には大銀杏がある。 「お二人とも越後からいらしたんでしょ?私も江戸から来ましたが、少し位なら案内出来ますよ?」 「十年程前に私は一回だけ来ましたが、殆ど忘れてしまって初めてみたいなものです。透、中学って京都の就学旅行?」 本庄さんは照れた様に頬を掻いて早阪君に問い掛ける。 「俺、広島だったから京都って初めて」 「え?そうなの!?」 本庄さんは驚いているが、私にはよく分からない。 「京都は京ですよね、修学旅行と広島、中学とは何ですか?」 私は早阪君とは反対の本庄さんの隣から二人を見る。 「中学は寺小屋みたいなものです、修学旅行は寺小屋の子供達だけで行う旅です、広島とは備後と安芸の真ん中ですよ」 「寺小屋で、旅ですか……越後から備後、安芸ってちょっと遠過ぎません?」 大銀杏の前まで来ると私はよく考えて唖然とした。 「飛行機だし…」 「飛行機?」 何が不思議なんだと言わんばかりで私を見るが不思議も何も意味も解らなきゃ想像のしようも無い。 「沖田さん、飛行機って言うのはね…」 本庄さんは私と向き直ると大刀を腰から外して空を見上げた。
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