元治元年【春之拾】

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    「この刀と同じ鉄で出来ている空を飛ぶ道具です」 「空を、飛ぶ?」 「そう、百五十年…今生きている人間達が死んだその後の日本はね、この人の血を沢山浴びた鉄と同じ鉄で人を幸せにする道具を作る事を諸外国から学んだんです」 私は自分の清光に触れて想像しようとした。 カリカリ… 本庄さんにつられて茜色の空を見上げていると足元で音が聞こえ視線を落とす。 「沖田さん、飛行機ってこんな形してて、大きさは人がこん位だよ」 早阪君は近くに落ちていた小枝で砂地に何か絵の様な物を描いた。 それは翼を広げた鷹の様な形で、傍に掻かれた棒状の人間は米粒の様だ。 「これが、飛行機?」 「うん」 早阪君は頷くと手を払って立ち上がる。 「想像、出来ないでしょう?こんな、人間が小さく見える程に大きな鉄の塊が空を飛ぶなんて」 本庄さんは早阪君の描いた絵を見て少し苦笑いしている。 確かに分からない。 私は思わず清光を腰から抜き、地面と平らになる様に持ち空へ投げてみた。 「沖田さん!?」 「え!?」 早阪君と本庄さんは同時に私を凝視したが、私は構わなかった。 自分でも馬鹿馬鹿しい事をしていると思っている。 でも、それ以上に馬鹿馬鹿しい事を言ったのは早阪君と本庄さんだ。 鉄は空を飛んだりしない。
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